階層

事物を微細に見ていけば、やがて正しい見解に辿り着けるという考えは誤りだ。
なぜなら認識の中に正解は求められないのだから。


正しさは、それが概念である以上、常に「正しくないもの」と対になっている。
認識の本分は、あれとこれとを分けることにある。



だから正しさは、より正しいものよりは正しくない、ものでしかない。
階梯を辿る行為は無限遡及だ。
認識されたものは、たえず断片的だ。


だが、ある階層では、確かに物事がよく見えるレベルがある。


水が水としてよくわかる層がある。
水の分子をつまみ上げても、それが氷なのか水蒸気なのかわからない。


階層を実体的な答えと捉えるとただちに誤る。


階層とはアプローチであり、眼差しのこと、問いかけのことだ。
答えを差し挟まない問いが、私たちにほんの少し世界のありようを見させてくれる。