最短・最大・最速
「最短距離」と聞くと物理的な事実を表していると思いがちだが、
「2点間を結ぶ最も短い距離」とは、概念上でしか成立しない。
線とは定義上、幅を持たない。
ようは人間にとっての認識上の事実であって、世界の事実ではない。
地球から月へ打ち上げたロケットは、最短の直線運動で目的地へ向かうように見える。
だが人間の認識に関係なく、実際の運動は螺旋をーつまり連続的な曲線を描いている。
地上においても最短かつ最速と思われている直線運動は、
事実としては曲線運動にほかならない。
風と海流を読んでAからBへ向かう船の航路を見下ろすと、
「|」ではなく小刻みに「Z」を描く。
重要なことは、最短・最大・最速で目的地を目指す「現在の動き」は、
目的地に向かう航路としては常に誤っていることだ。
しかし、そうでないと最短の時間で彼の地に辿り着けない。
対象はなんら変化していない。
観察する者がどこで何を見るか?によって見え方が異なる。
ところで政治、経済の分野では、昨今最短、最速の判断が正しさを弾き出す上で肝要だと喧伝されている。
だが、人は常に直線を行かないことでしか目的に達せないことを忘れている。
「見る者はどこで何を見るか」を勘案するセンスが最も蔑ろにされている。