虫の世界

昆虫の眼に映る世界は、人間が見ているよりもずっと抽象的なのだという。


いま一匹のアリが白い斑点のある葉っぱを歩いている。彼の足下の光景は、歩行にしたがって緑、緑、緑、白、白、緑というふうに変わって行く。


言うなれば、これはB、B、B、A、A、Bという抽象化された世界を見ている。
人は抽象的な思考を得意としていると思っているかもしれないが、人よりも知性の少ない生物になればなるほど、世界は抽象的になる。


彼らには因習や伝統による思い込みがない。世界の素の姿そのものに応じている。


高度に抽象的であるとは、概念を積み上げて、ありうべき世界を夢見ることではなく、
世界の変動に伴い、その理解の更新に寄与するためにある。